冬の間はあれだけ朝寝坊な太陽が、釣りのシーズンになるとやたらと
早起きになる。
まだ陽も昇らぬうちに寝床から這いずり出て、無理矢理歯磨きをしなが
ら体に喝を入れる。 当然それでも目は醒めきらない。
仲間も次々に起き出してきて挨拶を交わす。
やっとの思いで準備を整え、車に乗り込みポイントへ移動する。
お気に入りのロッドとリールを出して組み込む。今朝の戦略を練りながら
ラインを通す。フライケースを取り出して、きっとそれであろう今朝の
ラッキーフライを選りすぐる。
早速ドラグを湖面に鳴り響かせながらフライラインを引き摺りだす。
何度かキャストを繰り返し、何度かに一度はフックが左頬に突き刺さった
鱒を寄せてはリリースを繰り返す・・・はずだった。
まだ釣り始めてそんなに時間は経っていない・・・のに押し寄せる睡魔。
あの小悪魔に勝てるアングラーはどの位いるのだろう?
中でも突然全身を飲み込まれてしまうかのようにやってくる直下型の睡魔
は、アントニオ猪木の伝説のローキックよりはるかに効くに違いない。
そして僕らは落ちていってしまう・・・
きっと朝の睡魔は、鱒の悪戯『ささやかな抵抗』なのかもしれない。